NISHIGUCHI KUTSUSHITAについて、
もっと知りたいという方にむけた読み物です。
目を閉じると、思い出す風景がある。そして、その風景から漂う雰囲気に加えて、ふと目にした「色」も私たちの記憶に強い印象を残していることに気づきます。その場所でしか出会えない「色」があるのだとしたら。「色」を紡いだ先には、ひとつの物語が生まれていくかもしれない。そんな想いから、シーズンカラーのストーリーを綴りました。今後、シーズンカラーのご紹介とともに、様々な街を舞台に、その街で出会った色とともに、物語をお届けしていきます。あなたの暮らしている街や、旅先の思い出にはどんな色がありましたか?
朝目覚めると、光がやさしく窓を縁取っている。眠い目をこすりながら、ジョギングウェアに着替えて街へ出る。1日5キロのジョギングは、いつしか日課になっていた。
始めたきっかけは、このバンフという街を知りたかったからだ。留学したばかりの頃は、迷子になって寮に帰るまで一苦労したこともあったけど、今ではこの街の隅々まで、頭の中で地図が描かれていると言ってもいいほど、インプットされている。もちろん、走った後のごほうびのお店もマッピングされているけれど
ビーバー・ストリートとムース・ストリートの交差点に差し掛かった頃、行き交う車が過ぎるまで、しばし立ち止まる。それにしても、今日の空はとても気持ちがいい。一点の曇りもないとは、このことだろうか。
隣で同じように待っているご婦人も一緒の気持ちだったのだろう。「GoodDay!」と、こちらを見て、ニコリと笑う。笑顔は世界共通のコミュニケーション。朝から気持ちがいい。
バンフの中心部を南北に通るバンフ大通りへと入ると、カスケード山が、大通りの先に存在感を示している。ロッキー山脈は絵葉書でもいくつも見てきたけれど、この街とのコントラストが、より自然への畏怖が強く感じられて、とても好きな風景だ。見るたびに元気が出てくる。バイト先のバンフインターナショナルホテルを通り抜ける。同じ留学生のバイト仲間が、こっちを見て手を振ってくれた。
今日は久々のオフだ。朝食を食べた後は、足を少しのばして、レイクルイーズ湖まで行って、のんびりした時間を過ごすことにしようかな。もちろん、お気に入りの本とともに。
カナダの秋は華やかだ。秋になるとメープルの葉が一気にその表情を変えていく。それぞれの 国立公園では木々が赤く染まったり、黄色く染まったり。休日にでかける場所を迷ったことを思い出す。
ウッディーな建物はバンフの特徴のひとつ。何軒もつづく、可愛いピンク色の屋根は、この街のリズムを作り、散歩するだけで楽しくなる。
1日のはじまりは、空を見上げる。バンフの町は、空気が綺麗だからだろうか。空の色も、空気の一部のように透明感を感じさせる。
お気に入りのカフェの店員さんは、いつもパープルのエプロンをしていた。派手な色なのにさりげない。深煎りのコーヒーはいつも朝の相棒だった。
雪化粧をまとったビクトリアマウンテン。その山肌のグレーは、朝日を浴びると少し明るく見え、そして夜は、深い色に見えた。
甘党ではなかった自分が、留学でその美味しさに目覚めた。決まって食べていたのは、シナモンのドーナツ。この色を見ると、またあのドーナツが恋しくなってしまう。
カナディアンロッキーの木立は、まっすぐ空へと伸びている。新緑の頃のまだ少し自信なさげな立ち方から、夏には意気揚々と伸びている立ち方へと変わるのも見どころのひとつだ。
留学時代、バイト先だったバンフ・インターナショナル・ホテル。オフホワイトの外観の壁は、ミニマムなデザインの中に、アクセントを作りながらも、どこか懐かしい印象も添えてくれていた。バイト仲間もとてもアットホームだった。
観光地でもあるバンフには数々のショップが軒を連ねる。バンフで買ったネイビーグレーのシャツは、お出かけの時に気に入ってよく着ていた色だ。
同じようでいて、それぞれの湖面には、ニュアンスがあって、面白い。クルーズで湖上から見ても、遠くから眺めても、飽きないのはなぜだろう。
ロッキー山脈が色づく季節。その美しさは、言葉で語る必要などないのかもしれない。まぶたというシャッターを何度も切りたくなるほど。
甘いドーナツの片側には、いつもミルクティーがあった。シュガーは入れずに、ミルクは少し多め。冬の寒さは、たいていこの2つがあれば乗り越えられた。